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「じゃあ留守番よろしくね」 「うん。お土産楽しみにしてるから」 母を玄関で見送ってこれから何をしようかと考えを巡らせる。 今は夏休み。特にすることもないまま流されるのも、それはそれでいいけれど。 有意義な時間なんて自分の価値観でつくるものだ。なんて逃げ道を作って冷蔵庫の扉を開ける。 ああ、飲み物を切らしている。 私は仕方なくスーパーへ出かけることにした。 外は暑い。太陽が容赦なく地面を照らす。 汗を手の甲で拭いながら家路を急ぐ。 早くしないと飲み物とアイスが大変なことに。 そういえば、スーパーに入った時も不思議な感覚がした。そう、まるでここが異世界のように---。 いや、錯覚なのはわかっているけれど。 ただ、何度もこういう事があると、私がこの世界の住人でないように思えて怖くなる。 片道10分の道のりがやけに長く感じて、少し休もうと日陰に入った。公園のベンチ。アイスを一口齧ると冷たさがしみた。 そういえば街の至るところに貼り紙があったっけ。 神輿のデザインだったから祭りか何かだろう。 楽しそうだ。浴衣を着て行ってみようか。 でも人が多そう。迷子になるだろうか。 そうなる事を見越して手を繋いで行った事もあったっけ。 転びそうになった時、力強い手が私を引いてーーー。 これは、何の記憶? 私の手を引いたのは誰? そもそも祭りなんて行ったの? その記憶の中の私は心底楽しそうな気持ちなんだ。 私は怖くなって頭を抱えた。 誰。ここにいるのは。 震えが止まらない。今まで暑く感じていた気温が、やけに寒く感じた。 誰か。 一瞬よぎったのは、黒髪と、 紺色の着物とーーー。 「かなで?おい、大丈夫か!?」 目の前に駆け寄ってきたのはカチューシャをした男。 焦ったように私のおでこに触れる。ひんやりと気持ちよくて目を瞑ると暗闇に沈んでいく感覚がする。 遠のく意識の中で、あの鈴の音が聞こえた気がした。
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