21人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ留守番よろしくね」
「うん。お土産楽しみにしてるから」
母を玄関で見送ってこれから何をしようかと考えを巡らせる。
今は夏休み。特にすることもないまま流されるのも、それはそれでいいけれど。
有意義な時間なんて自分の価値観でつくるものだ。なんて逃げ道を作って冷蔵庫の扉を開ける。
ああ、飲み物を切らしている。
私は仕方なくスーパーへ出かけることにした。
外は暑い。太陽が容赦なく地面を照らす。
汗を手の甲で拭いながら家路を急ぐ。
早くしないと飲み物とアイスが大変なことに。
そういえば、スーパーに入った時も不思議な感覚がした。そう、まるでここが異世界のように---。
いや、錯覚なのはわかっているけれど。
ただ、何度もこういう事があると、私がこの世界の住人でないように思えて怖くなる。
片道10分の道のりがやけに長く感じて、少し休もうと日陰に入った。公園のベンチ。アイスを一口齧ると冷たさがしみた。
そういえば街の至るところに貼り紙があったっけ。
神輿のデザインだったから祭りか何かだろう。
楽しそうだ。浴衣を着て行ってみようか。
でも人が多そう。迷子になるだろうか。
そうなる事を見越して手を繋いで行った事もあったっけ。
転びそうになった時、力強い手が私を引いてーーー。
これは、何の記憶?
私の手を引いたのは誰?
そもそも祭りなんて行ったの?
その記憶の中の私は心底楽しそうな気持ちなんだ。
私は怖くなって頭を抱えた。
誰。ここにいるのは。
震えが止まらない。今まで暑く感じていた気温が、やけに寒く感じた。
誰か。
一瞬よぎったのは、黒髪と、 紺色の着物とーーー。
「かなで?おい、大丈夫か!?」
目の前に駆け寄ってきたのはカチューシャをした男。
焦ったように私のおでこに触れる。ひんやりと気持ちよくて目を瞑ると暗闇に沈んでいく感覚がする。
遠のく意識の中で、あの鈴の音が聞こえた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!