5

4/8
前へ
/71ページ
次へ
目を覚ましたのは、微かな話し声が聞こえたから。 ありがとうね、.....くん。 いえ、いいんですよ。だって幼馴染みだし。 本当にあなたがいてよかったわぁ。それにしても奏ったら、体調が悪いなら言ってくれればよかったのに。 まあ熱中症かもしれないですからね。じゃあ、俺はこれで。 あら、もう行くの?もう少しゆっくりしてってもいいのに。 いえ、すいません。これから塾なんで。 あらそうなの。頑張ってね。 ありがとうございます。じゃあ。 ええ。気をつけてね。 玄関の開く音がして、声は途切れた。 ああそうだ。彼は幼馴染みか。 今頃になってやっと思い出した。 冷たい風がふわりとカーテンを揺らした。 丁度太陽は真上にあるらしい。部屋の中が、なんとなく暗く感じる。 どこかの家から笑い声がする。ああ、ピアノの音も。 弾いてみたいと一度は思ったけれど、家庭の都合で断念したのだっけ。 もう一度目を瞑る。 これは私だ。私の記憶だ。 私は確かにここにいるんだ。 一瞬の、あの違和感はただの勘違いだ。 がちゃりとドアが開いた。 「かなで、大丈夫?もう起きられる?」 「もう大丈夫だよ、お母さん」
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加