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「ごめんね、手伝わせちゃって」
お使いの荷物を全部持たれてしまって申し訳なくなる。
私はお財布のみ入ったトートバッグ。
彼は買った全ての荷物。
私が母に頼まれてお使いに行くと、たまたま会った彼が全て奪っていったのだ。
「やめろよ気持ち悪い。ガキの頃からやってんだからいいだろ」
「そう.....だね」
そうだ。彼とは小さい頃から一緒に遊んだり、おつかいに行ったりしていたのだっけ。
彼は私の頭をがしがしと撫でて笑った。
少し、暑さにやられたのかもしれない。
きっとそうだ。そうに違いない。
そうでも思っていないと私は自分がはたして自分なのかわからなくなる。
「なあ、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
心配そうに顔を覗き込む彼に笑ってごまかす。
何をもって大丈夫になるのかわからないが。
ひぐらしの声がする。もう夕暮れなのか。
上を見上げると確かに傾く陽に照らされて赤く彩った空があった。
もうすぐ夜がやって来る。
「明日から学校か……。やだなー」
「あっという間だね、夏休み」
「こんなに早いなら計画立ててやったんだけどな。花火とか、海とか」
「デートとか?」
彼は肩をこずいて怒るふりをした。
私は笑いながら少し先を歩いていく。
ひぐらしの哀愁漂う鳴き声。
それに応えるようにカラスが一つ、カァと鳴いた。
私は立ち止まった。
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