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この世界はいつも夜だった。
空には(あれがはたして空と呼べるかわからないが)太陽が浮かぶことはない。
それどころか月も星も見かけない。
やんちゃな誰かが時々それらしきものを浮かべるが、やはりいつかは消えてしまう。
ただ今日だけは違った。
「うわあー!なんで?」
「今日は現世では地獄の窯の蓋が開く日なんだ。
だから羽目を外した若いのがああやって遊んでる」
空は一面星が散りばめられていて、オーロラが見えたり月がいくつもあったりとハチャメチャだった。
「あれ、でも宿は休まないんですか?」
「うちは年中無休がモットーだからな。
それに折角休みに来たのに宿が閉まってちゃ駄目だろ」
「それもそうですね」
いつもより人が多い道では彼の背中を追うことも難しい。
がやがやと話し声で溢れかえる道。
誰かにぶつかった拍子で後ろに転びそうになる。
「ひゃっ」
「大丈夫か」
腕を掴まれ間一髪転ばずに済んだ。
「今日は人が多いからな、気をつけろよ」
「す、すいません」
この世界がいつも夜でよかった。
真っ赤になった顔を見られなくて済むから。
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