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飛行機雲をたなびかせ、私は雲を突き抜け突き抜け宇宙エレベーターのある海上ステーションまでやってきた。
「まぁ、飛べるのは便利だけど」
宇宙エレベーターっていうのは、地球から高軌道宇宙ステーションまでつながっている長大なエレベーターのことである。エレベーターのカゴのサイズがざっと体育館くらいはあろうかと言えば、そのスケールの大きさに想像がつくだろう。
私は自分に向かって大手を振っている男を見つけた。青い目をしたブロンドで、手足のすらりと伸びた青年だ。
「わー、思ってたよりイケメンだ」
私はリボンの位置を整えて、男の前へしとやかに降り立った。
「僕が新しいバディのヴェリコだよ。君はルコノスタスだろ? よろしくな!」
ヴェリコが差し出した手を、私は人差し指でつまんでちょこんと握手した。
「ルコでいいわ。それにしても閑散としてるわね。いつもこんななの?」
海上ステーションには私とヴェリコ以外人っ子一人見当たらない。
「〝出る〟から一時閉鎖してるんだ」
私はぎょっとして、エレベーターホールをのぞき込んだ。
「まさか清掃作業って幽霊退治!? ロボットになにやらせんのよ。あの鬼メガネ!」
「はははっ、正確には行き場をなくして漂流している霊体さ。盗賊に肉体を強奪された人たちの霊体が、多数さまよっているらしい。彼らは怒りで半ば悪霊化しちまって、誰彼かまわず肉体を奪い取ろうとしてるんだ」
「ヤドカリみたいね」
「早く救出してやらないと本物の幽霊になっちまう。そこでこの囮の肉体の登場だ!」
そう言いながら、ヴェリコは布をかぶせた車いすの誰かしらを連れてきた。私が布をはぎ取ると、なんとそこには借金の形に取られたはずの私の肉体が鎮座しているではないか。
「これ、わたしの大切なカラダじゃない! 囮に使うなんて却下よ、却下!」
ヴェリコの人差し指が神々しく輝いた。
「一体救出するごとに、一万円の手当が出るよ?」
「えっ、一万円も!?」
私の物欲センサーがそれにビビッと反応する。
「協力するわ! 詳しく聞かせて!」
私はヴェリコとがっちりと手を取り合った。
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