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「ぼくに紹介したい人というのは誰だ」  ここにカザンがいないのが、まだ慣れなかった。あいつが死んでから一週間しか経っていない。ということは自分がこの手で人を殺してから一週間だった。恐ろしいのは、自分でもなにも変わっていないのではないかということだった。人は人を殺しても、なにも変わらずにいることができる生きものだ。軍人ならそれが当たり前だといわれるかもしれないが、タツオはその考えに慣れることができずにいる。 「すまない。なにしろやんごとない人たちでね」  タツオキが右手をあげて、広い宴会場の向こうに合図を送った。十数人の人の塊(かたまり)がゆっくりとこちらにやってくる。中央には人垣に隠されるように、天童(てんどう)家の2人がいた。西陣織の軍服が目も彩(あや)にシャンデリアの光を跳ね返している。 「あれじゃ戦場では一発で敵に目をつけられるな」  クニがふざけても誰も相手にしなかった。天童家は近衛四家の不動の第一席だった。万世一系の女皇の一族を凌(しの)ぐほどの旧家で、一説によると日乃元の国体ができる以前から、権力をほしいままにしていたともいう。
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