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「ケジメってやつだね」
どうやら、再度対応を変える必要がありそうだ。
──やはり、逃げるしかないか。
夢魔はあえてのっそり立ち上がると、チェルシーに盛大に舌を出し、遠隔移動の魔法を使った。
この日から、二人の戦いは熾烈を極めた。
夢魔がどこへ隠れても、必ずチェルシーが見つけ出すのだ。
近場の路地裏にある木箱の中程度ではダメだと判断した夢魔は、10km離れた町へ逃げ込んだ。
いい加減お腹もすいてきているので、ここらで食事にありつきたいのだ。
人間のチェルシーなら、お金さえあれば手軽に食糧の調達ができるが、夢魔はそうはいかない。
食糧にと選んだ人間がいい具合に追いつめられて感情を爆発させるまで、最速でも一週間以上かかるのだ。
その食糧の選別のため、夢魔は人の多い通りをふらふらと歩いていた。
もしかしたら、空腹で見た目もふらふらしていたかもしれない。
昼頃にこの町に着いてから数時間経ち、ようやく食糧になりそうな人間を見つけた。
義理の母親との折り合いが悪い少年だ。
今も通りの端で友人らに義母への不満をこぼしている。かなり鬱憤がたまっているようだ。
「これは案外早くに壊れてくれるかもな……」
さっそく、その少年に接触をはかった。
「ちょっと道を尋ねたいんだけど……」
あれから、少年の感情は順調に育っている。
まだ三日しか過ぎていないが、負のエネルギーはかなりふくらんでいるのがわかった。
「もっともっと大きくなってもらわないとな」
来たるごちそうに想いを馳せていた時だ。
「何に大きくなってほしいって?」
後ろから、聞きたくない声がした。
すごく嫌だったが、夢魔はゆっくりと振り向いた。
やはり、いた。
「なに、その世界一残念なものを見たような目は」
「いい表現だな」
「それはどうも。ごほうびに、あんたの命ちょうだい」
「だんだん身も蓋もない言い方になってきたな」
「そろそろ終わらせたいからね!」
言い終わると同時に抜かれる剣。
思い切り踏み込み、切っ先を突き出してくる。
夢魔は身を引いてかわした。
「よくここがわかったな」
「私、決めたから。すっぽんのように食らいついて離れないって!」
「ほんっと、めんどくせぇ奴だよ!」
あまり使いたくなかったが、夢魔は遠隔移動の魔法を使った。
やや乱暴に落ちたのは、どこかの倉庫の中だ。
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