第1章

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 騙され、操られていた──。  生きる気力をなくしたチェルシーは、少ない貯金を崩しながら酒浸りの日々を送った。  このまま酒で死んでしまってもいいと思った。  夢魔の今までなら、夢魔によってこうなった人間は魂が枯れて死ぬはずだった。  チェルシーも魂が枯れる間際、ふと夢魔と飲んだ日々を思い出した。  ──奴の調子の良い言葉に乗せられた自分が馬鹿だった。でも、その時は確かに楽しかった。  夢魔は、一度エサにした人間は二度は狙わないという。  今なら、お互いただの個人として飲み交わせるだろうか。  そして……仕返しをするのだ。  チェルシーは膝を着くと夢魔を抱き起した。  それから背負っていた荷物鞄からパンを取り出し、夢魔の口元に寄せる。 「くたばりかけを倒したって、すっきりしないからね。情けをかけてあげる」  恩着せがましく言ってやったが、夢魔は口を開かない。 「意地張らないで食べなよ」 「そうじゃない……人間の食い物は、何の力にもならない」 「そんなの食べてみなくちゃわからないよ。弱り切った今なら、もしかしたら栄養になるかもよ」 「ンなわけあるか……」 「いいから食え!」  チェルシーは、夢魔の口にパンを押し込んだ。  反射的に食べてしまう夢魔。  小麦のほのかな甘みと、もそもそした食感……それだけだ。  ──それだけ、の、はずなのだが。  夢魔は、少し体に力がみなぎるのを感じた。  結局、そのパンを全部食べてしまった。  そして、命は繋がった。  その代わり、夢魔は自分の中の何かがなくなったのを感じた。  次の日、夢魔は体の異変に気付いた。  まず、人間の食べ物で空腹が満たされる。  それから、夢魔としての力が失われていた。  使えるのはささいな魔法だけだ。  おそらく、死の寸前にあって生き延びるために体がパンを受け入れた時に、夢魔の力を代償にしたのだろう。  愕然とする夢魔に、チェルシーがわざとらしいくらい爽やかな笑顔で言った。 「一緒に職探しだね。ざまぁみろ」 「……」 「ほとんど人間のあんたを殺したら、人殺しになっちゃうからね」 「お前と、職探し……?」 「生きるためには仕事しなくちゃ」 「お前といたんじゃ、見つかるもんも見つからねぇな」  夢魔の言葉に、チェルシーの笑顔は一変し怒りの形相になった。 「そもそもあんたのせいで私は町にいられなくなったんだ。責任取れ!」
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