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「冷める前に食べましょうか」
(このっ・・・こんのっ!!)
くすぶる感情をぶつけるように、巴は普段よりかなりしつこくビビンバをかき混ぜてから、2つの小皿に取り分ける。
「どうぞ」
「ありがとう」
しばし黙々とビビンバを口に運んでから、巴は副店長に訊ねた。
「なんで会長はそんな条件つけたんですか?」
「良いスーパーマーケットを作るには、まず顧客の中心たる女性の心を掴むべし、というのが祖父の持論なんだ」
「なるほど」
確かに来店者のほとんどは主婦層だ。一理ある。
「だが、俺は女心というものに疎い。壊滅的なレベルでだ。現に君もガッカリさせてしまっただろう?」
今さら取り繕ったところでどうしようもないだろう。
巴はコクンと頷いた。
「・・・否定はしません」
巴の反応をすんなり受けいれた副店長は、ビールをひと口飲んでから独り言のように呟く。
「30過ぎてからそれとなく特定の相手を作るように、と圧力はかけられてたんだが・・・まさかこんなあからさまな手段に訴えて来るとは思わなかった」
ここでひとつの疑問が生じた。
推定身長180cmオーバー、そこそこイケメンのメガネ男子。
国立大学卒、仕事の出来る未来の幹部職。
しかも祖父はローカルスーパーとはいえ経営者。
条件だけ見ればかなり高スペックな副店長に、今まで恋人のひとりふたりいなかったのだろうか?
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