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今さっきまでときめいていたのが嘘のように、胸がムカムカしてきた。
(何さ、こっちは年末からさんざん期待感煽られたってのにっ!)
そもそもの始まりは昨年の12月28日。
巴の職場はK県では有名なローカルチェーン「スーパーはなまる」。
そして暦は大安。
おせちに数の子、鏡餅、そして正月飾り。
普段使いの食品、日用品に加え縁起物も飛ぶように売れるかきいれ時。
特に巴が担当する日配(にっぱい)部門はおせち商品を取り扱うので、最年末まで長時間の労働が続く。
午後19時すぎ、年末だけ入ってくる夜便入荷商品の仕分けを終えた時だった。
「桜庭さん」
振り向いた時、目に飛び込んできたのは台車に乗った大量の発泡スチロール箱と、いつものようにきっちりネクタイを締めた朝日副店長。
「どうしたんですか?そのカニ」
これまたいつも通りの仏頂面のまま、彼は言った。
「過剰発注。水産の冷凍庫に入りきらないから一時置きさせて欲しい」
「いいですよ」
(バックヤードだと無愛想だよね、この人)
知性を感じさせる黒縁眼鏡。
整った横顔。
もう少し取っつきやすい雰囲気なら、もっとパートさん達からの支持率も上がるだろうに、もったいない。
そう思いながら、巴は防寒用コートを羽織り、長靴に履き替え冷凍庫の扉を開けた。
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