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「そのカニ分荷(ぶんか)するんですか?」
温度マイナス20度。
決して広くはない冷凍庫内に二人きり。
通路に台車を入れられるよう、冷凍食品が入った段ボール箱を棚に上げながら巴は当たり障りのない質問を投げかける。
「ああ、明日駅前店の副店長が車で引き取りに来るまで置いておいてくれ」
「かしこまりました」
その時、巴の隣で同じように冷凍食品の段ボール箱を整理していた副店長がボソッと呟いた。
「・・・確か君、交際相手はいなかったよな?」
(え?今そんな流れだったっけ?)
唐突すぎる質問に戸惑った巴は、冗談まじりに切り返す。
「新手のセクハラですか?」
眼鏡が曇ってよく見えないけれど、しまったという表情に変わったような気がする。
次の瞬間、彼はお詫びの姿勢のお手本のような、角度45度で頭を下げた。
「・・・申し訳ない。そういう意図はなかった」
ここまで真剣にお詫びされるとは思っていなかったのだが。
(まるで誤作動起こしたロボみたい)
白く曇った眼鏡が余計にロボット感を演出している。
なんだかおかしくなってしまい、思わず巴は吹き出した。
「プッ・・・アハハハ、すみません、冗談のつもりで言ったんです。そんな真面目に受け取らないで下さい」
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