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慎一郎の思わぬ一言で、巴の脳内に先日バックヤードで目撃した二人の様子が蘇る。
「先日うちの店にいらっしゃってましたよね」
「ああ、彼女を知っていたのか」
「直接面識はないですけど、大石チーフが教えてくれました。とても優秀な方だって」
凛とした美人で、スタイルも良くて、仕事の出来る女性。
しかも、同期。
聞くのは怖い。けれどどうしても気になる。
「もしかして、以前お付き合いされてた相手って・・・」
慎一郎は苦笑する。
「・・・まったく、君は本当に察しが良いな」
(やっぱり、付き合ってたんだ)
その事実ひとつで、一瞬にしてどん底に突き落とされたような気持ちになった。
「なんとなく、お似合いだなって感じたので・・・」
巴は貼りつけたような笑みを浮かべて、自ら傷口に塩をぬる言葉を口にした。
「彼女とは、思考が似ていたからこそ続かなかったんだろう。今も良きライバルだとは思っているけれど・・・それだけだ」
ただのライバルだと言うなら、何故そんなにも優しい表情で、あの女性の事を語るのだろう?
(そうか、私・・・)
冷蔵庫で一度は考えるのを止めた理由に、巴は気づいてしまった。
(認めたくなかったんだ)
人柄も知らない他の誰かを、妬ましく思うどうしようもない自分を。
─恋がこんなにも、幸福とはほど遠い感情をもたらすのだということを。
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