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「社長が俺の親父じゃないのも知っているよな」
「はい」
社長には入社式で辞令を貰って以来、年に数回くらいしかお目にかかる機会はないが、名字が"朝日"じゃなかった事くらいはわかる。
「祖父はワンマン経営や世襲制を嫌う人なんだ。だから親父は全く関係ない会社で働いているし、俺も外部で経験を積んでようやく転職を許可された」
「そうだったんですか」
副店長の職歴にそんな事情があろうとは。
「・・・で、ここからが本題だ。実は来年度幹部社員育成セミナーに呼ばれることになった」
幹部社員育成セミナーとは未来の経営陣育成を目的として、5年に1度外部のコンサルタントを呼んで通年で開催される研修だ。
30代前半で、しかも会長の身内だからではなく副店長自身の実力を評価されて選抜されたのだから、噂でしかセミナーの存在を知らない巴でも、なんとなく凄い事だと想像出来る。
「え!?よく知りませんけど、それって凄い事ですよね」
今の気持ちを言葉にしただけなのに、副店長はふいっと目線を逸らし、ゴホンとひとつ咳払いをした。
(もしかして貴重な照れ顔いただきました?)
普段のポーカーフェイスがほんのちょっと崩れた・・・ような気がする。
「もちろんセミナーに呼んでもらったのはとても有難い事なんだが、祖父が俺だけに特殊な条件をつけてきたんだ。そのだな・・・・・・」
副店長はしばし沈黙した後、とても言いづらそうに次の言葉を口にした。
「恋人を作らなければセミナーへの参加を拒否する・・・と言われた」
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