第2章 賢帝レオン

14/15
前へ
/64ページ
次へ
「おっ、ジェラール様じゃないですか。」 「ヘクター。」 声をかけてきたのは、フリーファイターのヘクター。 基本的にはフリーの傭兵だ。 しかし、正規兵に勝る程の実力を持ち、大剣を用いた遊撃においては、あのジェイムズすら上回る。 アバロンで雇われてはいるが、そうでなければ荒くれの傭兵団に属していたであろう、攻撃的な性格だ。 「またレオン様についてモンスター討伐に行ったんですか?ジェラール様は、お部屋で学問でもやっていればいいんですよ。」 ヘクターは優秀な戦士であるレオンに憧れて、志願した兵の1人だ。 ここにはそうした者も少なくない。 しかしヘクターは特にその傾向が強く、腕自慢の自分を差し置いて、剣もまともに扱えないジェラールが、レオンと共に戦場に赴く事を快く思っていないのだ。 「しかし、私は少しでも父上のお役に立ちたいのだ。」 「人には向き不向きがありますからね。まあ、ケガして泣きベソかかないように気をつけてくださいよ。ははっ!」 あからさまな挑発を繰り返すヘクターだが、ジェラールは思う。 彼の言うことも、もっともだと。 現に自分はレオンの足手まといでしかない。 「コラッ!ヘクター!」 「げっ!アンドロマケー!」 ヘクターに絡まれているジェラールを発見して駆けつけたのは、彼と同じフリーファイターのアンドロマケーだった。 女性であるにも関わらず、体は大きく、ヘクターに並ぶ屈強な戦士だ。 ワイルドで姉御肌の彼女にはさすがのヘクターも適わない。 「あんた、ジェラール様になんて口利いてんだ。あんまりふざけてると縛り首じゃ済まないよ!その前に、あたしにぶっ飛ばされてぇってんなら…」 穏やかではない。さっきまでヘラヘラしていたヘクターの顔色も、だいぶ青ざめている。 「いいんた、アンドロマケー。いざという時に、身を守る事もままならない、私も悪いのだ。」 「ジェラール様も、そんな事でどうします!レオン様の血を引いてらっしゃるのですよ!」 アンドロマケーは激しくジェラールを叱責する。 フリーファイターは他の兵と違い、遠慮がない。 「アンドロマケー。その時は、君に守ってもらうさ。」 「はぁ…。だめだこりゃ…。ホラ、ヘクター。行くよ。」 アンドロマケーはジェラールの言葉に、半ば呆れた様子で、ヘクターを豪快に掴み、引きずって行った。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加