2人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
──怖い。人を好きになるのが、怖い。
『山瀬! 加藤、結婚するらしいぞ』
突然かかってきた1本の電話。
「へぇ、そう……」
『なんだよその反応。高校ん時お前と加藤が一番仲良かったろ?』
ズキ。
電話越しの友達はとても楽しそうに話している。昔と何も変わってない。
「そう、だったっけ?」
今まで忘れたくても忘れられなかった過去。
……もう少しで忘れられる気がしていたのに。
そんなの、自分を守るための幻影みたいなものだが。
『そうだろー! だって加藤も言ってたぜ?』
“加藤”という名前に胸が痛む。
ズキ、ズキズキ。
『山瀬に一番最初に言いたかったって!!』
何かが崩れる音がした。
『そういやまだ聞いてなかったんだな本人から』
「ごめんちょっと今体調悪いから切るね報告ありがとうじゃあ」
食い気味にそれだけを早口で伝えると、即座に電話を切った。
震える身体を抑えるように壁に凭れ、しゃがみこむ。
「……加藤」
実際自分が口にしてみるとやけに生々しく感じて血の気が引く。
──忘れたかった過去。忘れられなかった過去。
「どうして……っ」
口から零れた言葉は音になったのかもわからない掠れた声だった。
最初のコメントを投稿しよう!