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「……ごめん。ちょっと喋りすぎちゃったな。純情な百合さんには理解できない話だったかもね」
形だけの謝罪を述べて、彼は私をその長い腕で包み込んだ。
突然訪れた体温とその存在に息が音をたてて喉を通っていく。
「でも、どうしてかなー……百合さんだとこうしていても落ち着くんだよね。ずっと抱っこしていたい。
なんだろ、百合さんからマイナスイオンでも流れているのかな?」
「な、何馬鹿な事を言って……!」
「あははっ。そうだよね、ごめんごめん」
優しく包んでいてくれた腕はすぐに離れ、残ったのは私の服に染み付いたまだ慣れない彼の煙草の匂いだ。
ここまで近付いて知ったのはメンソール系の煙草を吸っているっという事。
これからこの匂いを嗅ぐ度に彼の事を思い出しそうで怖い。
そんな私の気持ちなど気付かずに、奏さんは私の頭部の髪をくしゃっと撫でた。
「じゃ、また明日ね。おやすみ」
まるでペットにするように私の頭を数回撫でて、彼はこの部屋から出て行った。
私はというと整理つかない気持ちのまま布団に潜り、浅い眠りを繰り返す夜を過ごした。
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