癒しの時間と昔話

38/38
3112人が本棚に入れています
本棚に追加
/373ページ
「……ごめん。ちょっと喋りすぎちゃったな。純情な百合さんには理解できない話だったかもね」 形だけの謝罪を述べて、彼は私をその長い腕で包み込んだ。 突然訪れた体温とその存在に息が音をたてて喉を通っていく。 「でも、どうしてかなー……百合さんだとこうしていても落ち着くんだよね。ずっと抱っこしていたい。 なんだろ、百合さんからマイナスイオンでも流れているのかな?」 「な、何馬鹿な事を言って……!」 「あははっ。そうだよね、ごめんごめん」 優しく包んでいてくれた腕はすぐに離れ、残ったのは私の服に染み付いたまだ慣れない彼の煙草の匂いだ。 ここまで近付いて知ったのはメンソール系の煙草を吸っているっという事。 これからこの匂いを嗅ぐ度に彼の事を思い出しそうで怖い。 そんな私の気持ちなど気付かずに、奏さんは私の頭部の髪をくしゃっと撫でた。 「じゃ、また明日ね。おやすみ」 まるでペットにするように私の頭を数回撫でて、彼はこの部屋から出て行った。 私はというと整理つかない気持ちのまま布団に潜り、浅い眠りを繰り返す夜を過ごした。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!