いつも傍に

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 ◇ ◇ ◇  穏やかな春の陽気。桜の花が舞うなか、新しい制服に身を包んだ生徒たちが、これから三年間通う学校の門を潜る。  広い校舎の一室、新しい環境に期待と不安を抱く生徒たちの眼差しの先に、教壇に立つ水瀬康介の姿があった。 「みなさん、入学おめでとうございます。この一年D組の担任を受け持つことになった水瀬康介です。担任を受け持つのは初めてなので、みなさんと共に成長していけたらと思っています。これから一年、よろしくお願いしますっ!!」  水瀬康介は、この春から一年のクラス担任を受け持つことになった。そして、桐野翔悟は昨年度と変わらず二年のクラス担任を受け持っていた。  受け持つ学年が違い、仕事での接点は減ってしまった。しかし、同じ校舎にいるのだ。示しあわすようなことをしなくとも、いつでも逢うことはできる。 「桐野先生」  授業中で人気のない静かな廊下に佇み、窓の外を眺める翔悟の背中。それを見つけ、康介が声をかけ近づいていく。 「何を見ているんだ?」 「桜ですよ」  静かに振り返った翔悟は柔らかく微笑みかけ、窓の外へと視線を戻す。彼の視線の先には大きな桜の樹があった。 「あー、桜かぁ。ここの桜、綺麗だよな。去年見た時、感動したよ」  青い空の下に広がるピンク色の花。窓の外に広がる暖かな春を視覚のみだけで感じ、感慨深く言葉をこぼす。 「もう、一年経ったんですね」  そして、翔悟もまた同じように呟く。 「……そうだな。何て言うか、めちゃくちゃ濃い一年だった気がするよ」 「そうですね」
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