いつも傍に

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「やっぱり、おれのこと名前で呼んでくれないの?」 「な、何ですか。突然」  平静を保っているようにみせるが、ちょっとしたお願いに対しての挙動にしてはおかしい。 「……それは以前も言いましたよね。仕事中にうっかり呼んでしまうかもしれないから嫌だと」  そして、返答は以前と同じで、何かを隠そうとする様子も同じく存在していた。 「なー。呼び方変えるのって、恥ずかしい?」 「――なっ!? は、恥ずかしいって」  直球で尋ねた言葉に、翔悟の顔がみるみる赤くなっていく。遂には顔を逸らしてしまった。 「アハハッ。やっぱ、そうなんだなっ」  康介は腹を抱えて笑う。あまりに大袈裟に笑うものだから、さすがに翔悟もムッとしてしまう。 「そこまで笑う必要はないでしょう」  声に怒気が含まれ、一度は笑いを止める。しかし、それはあまりもたなかった。 「アハハ、ワルい、ワルい。ただな、親子って似てくるんだなって思ったら、つい可笑しくなってしまったんだよ」  康介の言動の意味が分からず、眉間に深い皺を寄せる。 「今日、翔悟の親父さんと話したんだよ。名前の呼び方について」 「義父さんと? どういうことですか?」  康介は笑いを堪えながら、翔悟の義父との会話を話した。 「…………そうですか。義父さんが……」  話しを聞いた翔悟は、どことなく嬉しそうだった。  家族といっても、血の繋がらない父と子。その義父と自分に、小さな共通点があったことが嬉しかったのだろう。 「だからさ、別に強要はしないよ。さっきのも、これを思い出して何となく言ってみただけだから。それに翔悟に『水瀬くん』って呼ばれるのも嫌じゃないから」 「いいえ、変えます」  しかし、なぜだろう。義父との共通点で喜んでいた筈なのに、許可を得ると変にムキになってしまう翔悟。
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