いつも傍に

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「いや、別に無理しなくてもいいよ」  そう、口では言っているが、望んでいた願いが叶うかもと、隠しきれない興奮が滲み出る。前のめりになって、翔悟の口から自分の名が発せられるのを待っている。  目を輝かせ自分を見つめてくる康介を前に、高らかに宣言したものの恥ずかしさを拭いきれない翔悟。視線を泳がせ、声を出さずに唇だけを動かす。期待溢れる眼差しに何度か視線を向け、翔悟は遂に覚悟を決めた。 「…………こう……すけ」  待ち望んだ言葉に、「おおっ」と、歓喜の声を上げる。  ついに念願叶い名前で呼ばれた康介。些細な出来事なのかもしれないが、自分のために変わろうとする翔悟の姿が、自分が愛されている証なんだと実感できてしまう。それが嬉しくて、これでもかというほどに顔がニヤついてしまう。 「何ですか、そんなにニヤついて。風呂、先に行きますからね」  翔悟は顔を赤くしたまま康介と顔を合わせようともせず、さっさと一人で風呂に向かってしまった。 「も~。恥ずかしがんなよぉ~」  康介は身体の怠さも忘れ、おどけた様子で翔悟の後を追っていった。  しかし、この変化は数日で終わってしまう。  翔悟が恥ずかしくなり嫌がったからなどではなく、なぜか『康介』と言う呼び方に互いがしっくりこなかったのだ。結局、呼び方は元に戻り、日常もいつもと変わらないものに戻っていった。  でも、康介はそれで満足だった。翔悟が自分を好いていることに変わりはない。そして、自分が翔悟を好いていることにも、何ら変わりはないのだから。呼び方なんて気にする必要はない。そう思え始めていたからだった。
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