ダレカナカレダ

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「これ、返却します」  読み終えた第一巻を持って図書室を訪れた。ぼくを見て、何故だか司書はひどく驚いたようだったけれど、続編が置いてある棚を訊くと快く教えてくれた。 「今日は、とても具合がよさそうですね」  道すがら、そんなお愛想まで言ってくれた。 「前に来られた時とは、様子が全く違ってみえます」  こっちは、少し余計だった気がするけれど。 「お探しのシリーズは、こちらです。最終巻まで全てそろっておりますよ」 「ありがとう」  お礼を言うと、司書はますます感心したようだった。こんな当たり前のことで喜ばれるなんて、変な気分だ。  ほこりっぽく色あせた古本の間で、その本たちは光り輝いて見えた。どの本も、ぼくに手に取ってもらうのを心待ちにしている。  近くにあった木造の脚立を引き寄せると、その上に乗り、ぼくは一冊を手に取った。がまんできず、開いて読み始める。するすると単語が頭の中に入ってくるのが快感だ。  さあ、ドラゴンは今度はどんな困難に立ち向かうのかな。  うっとりと物語の中にひたったところで、違和感に気がついた。  ぐらぐらぐら。まっすぐなはずの脚立が揺れ始めたのだ。見れば、小さなアリたちが何百匹も集まって足場にかみついている。 「や、やめろ、やめろ!」  叫んだが、アリたちは一向に止める気配を見せない。泡を食って脚立から飛び降りる。勢いあまって尻から床に着地してしまった。にぶい衝撃。口から星が飛び出るかと思った。 「ちょっと、大丈夫ですかっ?」  先ほどの司書が駆け寄ってくる。その顔を見て、ぼくはまたギョッとなった。普通の人間の顔じゃない。赤い天狗の顔になっている。  なるほど、こいつは天狗が化けた偽物だったんだな。だから、わざとぼくのことを褒めて、油断させようとしていたんだ。 「わ、わ、わ、やめろ! こっちに寄ってくるな!」 「落ち着いてください。今、先生を呼びますから」  そう言って天狗は携帯電話を取り出した。やめろ。仲間を呼ぶつもりか? 天狗がこれ以上増える前に、ぼくはその携帯電話を叩き落した。 「ちょっと!」  ヒステリックに叫ぶ天狗を置いて、閲覧室のソファの下にもぐりこむ。奴らに見つからないように頭を抱えて、ぎゅっと目をつぶった。 「ああ、最悪だ……この世の終わりだ……」
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