透明人間の恋

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 先月まで猛威を振るっていた北風もなくなり、枯れ果てていた樹木にも新芽をつけ春が到来告げる4月。  A公園はT県の市街地を通る鉄道の停車駅の1つであるM駅のすぐ隣にある。通勤の時間帯の朝となると東京には及ばないが結構な数の会社員、学生が下車し公園付近も活気を見せる。  A公園は彼らのオアシスにはなりそこねたが、そこそこの存在感を示し、通勤通学に彩りを添えている。  多くの会社員、学生はA公園脇の道を通り、大通りに出てオフィスビルに入るか、もうできてから30年近く経つ大学に入るか、さらにバスに乗り換えさらに県の心臓部へと移動する。  そんな朝の風景が毎日繰り返されるが、また別の朝の風景もあった。  通勤ピークから1時間半後、まばらの乗客の中からさらに数人の乗客しか降りてこない時間帯だ。  車両からホームへ、黒髪で整った顔立ちの女性にしては背の高い可愛らしい娘さんが降りてくる。他にも乗客はいるがひと際目立っている。  TVスターのような派手な顔立ちではないが瓜実顔の美人で、気づかないくらい薄化粧が自然で好感が持て、その整然とした性格を表すようにカツカツと規則正しい靴音を立て歩く。カメラのレンズではなく、日常の風景に映えるような娘であった。  彼女もM駅から、A公園の脇の道を通り抜け、大通りのオフィスビルへと向かう。カツカツカツ...。靴音が公園の静けさにアクセントを与えている。  彼女は短大を卒業したばかりだ。最初、正社員の事務職を希望していたがあいにくの就職難ですべて落ちてしまった。仕方なくアルバイト面接の中から「うちは正社員登用制度があり実際正社員になった人もいる。あなたの努力次第で正社員の可能性もありますよ。」と言われた会社にアルバイト事務員として入社した。  正社員採用されていればなあ。ときどきため息をつきながら彼女は歩く。「でも社会人生活ははじまったばかり。かんばらなくちゃ。」自分を鼓舞しながら、 今日も勤務時間の短いアルバイト社員の就業開始時間に間に合うべく先を急いだ。  そんな彼女に熱い視線を送る若者がいた。  仮にK君としておこう。K君はM駅を最寄りとする大学の新入生だ。平凡な家庭に育ち、平凡な小中高校生活を送り、今年から家から一番近いという理由だけで先に紹介した大学へ進学したまあ、説明に困るような普通の大学生だ。  彼女に出会った(彼女は      
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