透明人間の恋

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を追っていった。  しかし、後ろ姿だけでもほれぼれする。立ち居振る舞い、たたずまいを見るだけでも女性の価値はわかるものだなと思った。  後をつけているだけでこんな幸せな気持ちになるなんて至福の時であった。  途中、交差点で赤信号で止まった時横顔がみえた。こんなすがすがしい日よりなのに物憂い悲しそうな顔をしていた。  K君は突然、今自分がしていることがとても惨めに思えてきた。彼女は人知れず悩みがあるのにがんばっているのにそれに引きかえ自分は...。女性に対してこんな卑怯な手を使って...。  自らの情けなさに思い至ったK君は考えを改めた。透明人間なんかやめてありのままの自分を見てもらおう。それで振られたら仕方がないと。  そう考えているうちにふと気が付くと前方の彼女がいない。「しまった、先に行ってしまったのか。」 ガツン!  鈍い音が頭にしたなと思ったら、目の前に黒いカーテンが敷かれたような感覚を受けた。何が何だかわからないうちにK君は意識を失いその場にうつ伏せに倒れた。 「やったわ。」  彼女はいつの間にかK君の後ろに回り込んでいた。警官が持つような警棒を手にして。  彼女は最初からK君が後をつけていることに気付いていた。彼女は足音、におい、気配、息遣いで相手を察知できるすべを身につけていた。  彼女は視力を持たないまま生まれてきた、全盲であったのだ。  また、生まれつきの美貌からストーカーに悩まされてきたためこういった経験は慣れていた。護身用の警棒も今日も役に立った。  K君が倒されたのはいわば必然の結果だった。透明になるためにわざとショックを与えた頭の箇所と彼女が警棒を振り下ろした箇所が偶然同じで、K君が絶命してしまったこと除けば...。  「いけない、遅刻しちゃう。」  彼女は急いだ。時間にルーズだと思われたら正社員への道が一層険しくなってしまう。 カツカツカツカツ。  オフィスビルに着いた彼女はまるで正社員への階段をのぼるかのように軽やかなステップで2階の事務室へ駆け上がって行った。  
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