第一章 おふざけの後始末

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 深々と頭を下げる面々を、中島陽人(なかしまはると)は腕を組んだまま訝しげに眺めていた。シャッターを切る音や、その報道陣の数から、それが大きな関心事であることは一目瞭然だった。  無骨な顔をした中島の隣では、入庁二年目の後輩である榊原由衣(さかきばらゆい)が平静さを失っていた。繊細な指先につままれた資料は激しく曲がり、さも自身がそこに立つ身であるとばかりショックを受けているようだった。  由衣の動揺も、あながち間違ったものではない。ここぞとばかり投げつけられる質問に晒された中の一人、そこには自分らを束ねる上司である蟹江正隆(かにえまさたか)の姿もあった。薄い髪もそのままに、真四角な眼鏡の中から挙動不審に視線を動かし、矢面に立たされた悲哀を前面に見せつける様子は、酷く滑稽に映ったことだろう。 「どのような経緯で今回のことが起こったのでしょうか?」  太い二の腕に腕章をつけた、どこだかのレポーターが不躾に言った。蟹江の隣に座る男が目の前のマイクを手に取ると、わざとらしく咳払いをした。その様子は、まるでこれからプロレスのマイクパフォーマンスを始めるような堂々としたものだった。 「業者間で発注の手違いが起こりまして。それで現場の担当者が勘違いをし、このような事態となってしまいました。改めて、お詫び致します。申し訳ございませんでした」
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