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再度、頭を下げた面々に口を真一文字にした中島は、「あんたらにも責任あんだろ」と舌打ちをすると、未だ頭を上げない自分の上司を裏切るよう、記者会見の会場を後にした。報道陣でごった返す狭い廊下を不機嫌に行き過ぎると、「関係者以外立ち入り禁止」の立て看板の見える通路に足を踏み入れた。ここぞとばかり侵入しようと試みる部外者を適当にあしらうと、その先に見えた扉に手を掛けた。
「お疲れっす」
フロアに頭を覗かせるなり、誰かが中島に声をかけた。中島の一年後輩である伊藤二朗(いとうじろう)は、ボサボサの髪もそのままに、百九十センチはありそうな大柄な身体でキャスター付きの椅子に深く腰掛けたまま、口元には市販のパンを咥えていた。いわゆる今時のスタイリッシュさを持ちつつも、先程会見場に見えた緊張感などは一つもなく、さもこれまで眠っていましたというほど軽い声色だった。
「別に疲れてないって」
男の隣に座った中島は、デスク上、適当に積まれた中から一枚の封筒を手に取った。中から取り出した紙の最上部には『注文伝票』と記述されており、見積もりと発注内容が記されていた。
「例の発注書すか?」
パンのカスを周囲に撒き散らしながら伊藤が中島の手元を覗き込んだ。「汚ねぇな」と肩を押し返すのも気にしない男は、「馬鹿ですねぇ、課長」と、また適当な相槌を打った。
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