屋上先約

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「屋上の先約」           神空寿海  「最悪だ…この世の終わりだ…」  と、思い詰める程の、大失恋。  既に切れてるスマホを握り締めて、耳に当てたまま、立ち尽くしていた。  アラサーの自分が、今から新しい彼氏を捕まえて、恋愛まで持って行くなんて、考えられない。  若さと、そこそこ可愛いルックスに頼り切っていた自分が、今になって恨めしい。  だんだん、握り締めた手が震えて、怒りを通り越して、全身の力が抜けてきた。  思考回路がショートした様に、考えがまとまらない。  気が付くと、ビルの屋上で、ネットのフェンスを鷲掴みにしていた。  頭の中と同じ様に、何だか、体もフワフワとフェンスをよじ登って、ビル風が吹き上がる、反対側に降りた。  怖いとも、何とも思わなかった。  漠然と見渡すと、五十センチ位のビルの縁の先に、パンプスが揃えて置いてあった。  「何かあったのかしら…」  そうとしか、思わなかった。  フェンスをたどって、パンプスに近づくと、ビルの反対角に女の人が立っているのが、見えた。  靴は履いている。  「あなた、そんな所に居たら、危ないわ。」  うつむいたまま、全く反応しなかった。  またフェンスをたどって近づくと、彼女は狭幅のビルの縁を、逃げる様に反対角へと走っていった。  「危ないわ。」  全然こっちを見ない。  その先には、もう一人の女の人が立っていた。  その女は走り寄る女に気がつき、悲鳴を上げた。  「いやぁぁぁ。」  女は走り寄ったそのままの勢いで、悲鳴を上げる女を、突き落としてしまった。  「ひぃぃぃぃ。」  今度は、髪を振り乱した女が、こっちに走ってきた。  動けない。  真っ黒な顔に、大きく見開いた真っ赤な目が、鼻の先に迫った。  「最悪さ…この世の終わりなんだよ…」  突き落とされた私、思考もフワフワ、体もフワフワ、本当にこの世の終わり。 おわり
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