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画面を見ると知らない番号だった。
03で始まるから東京都からかかってきているのだけはわかる。
嫌な予感しかしない。
でも無視もできない。
敵の出方を知りたくてオレは思い切って電話に出てみた。
出るとさっそく中年オンナの低く物腰の柔らかい声が耳をくすぐった。
「橘ハジメさんですね。私、厚生労働省職員の花田と申します」
警戒して返事もしないオレに相手は何度も「もしもし?」を会話中に入れてオレが聞いているか尋ねた。
「人類史上最後の男性に橘さんのお名前が報道されて驚かれたかと思います。ですが、安心してください。さきほどあなただけではなくなりましたのでご報告にお電話いたしました」
「えっ?!」
油断させるつもりかと思い、半信半疑ながらもオレは思わずその台詞に食いついてしまった。
「あの、オレ、いえ、自分だけではない、とは、他に男性が発見されたという意味でしょうか」
「いいえ、ちがいいますよ」
中年花田は朗らかな調子でオレを諭すように続ける。
「さきほど全世界の病院で男児の出産が確認されたんです。約五千人ほどですが、どの子も元気なお子さんだそうで」
「え、出産?!」
「はい、日本では30人くらい」
オレは「人類最後の男」のポジションを5分で奪われて肩透かしを食らった。
それでもまだ妊娠願望女たちや人類存続主義者たちの魔手から逃れたわけではない。成人男子はいまだオレ一人なのだから。
「それから、全世界人権擁護団体の代表から橘さんの人権を守るよう政府に連絡が入りまして、橘さんの合意なく、種の保存と称して性行為を強要した場合、対象者は国際連邦裁判にかけられるとの条約が受理されたと通達されました。ですから、安心していままでと同じような生活を送れますよ」
「条約?! 人権擁護団体?!」
なんだ、その話のスケールの大きさは。
オレは絶滅危惧種か抑圧された立場の弱い人種か?
中年花田は変わらない自然な朗らかさで説明を続ける。
「橘さんが同性愛者であるのは国のDNA検査ですでに調査済みでした。なので、我々としても了承済みだったんですね」
「ちょっと待ってください。国のDNA検査って何ですか」
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