超妄想シリーズ16

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 「生後三カ月検診を受けられた際に血液を採取されますよね。先進国では共通のDNA検査が義務づけられていたんです。  先進国では一人一人のDNA情報が国家間で管理されていたので橘さんが同性愛者であるのは政府間共通で存じておりますよ」  「存じております、って、立派な個人情報の侵害じゃないですか!」  「今回のような場合の危機管理に活用するために作ったシステムの一環です。普段は乱用されないよう厳重に管理していますからご安心くださいね」  まるで病院の看護婦さんが子供に「注射は痛くないですよー、大丈夫ですよー」となだめているような調子だ。  いつもならバカにされているようで腹も立っただろう。けれど、今回は勝手が違った。  中年花田がどうにも「お母さんっぽいオバさん」のせいで妙な安心感をおぼえるのだ。  オレは騙されているんだろうか。  「それから、全世界人権擁護団体の支部に当たる“NPO法人 ニコニコぷんぷん丸”の方がサポートに入りますので、なにかあったらその方におっしゃってくださいね」  いや、待て待て待て待て!  なんだ、そのあやしげな団体名は!  もうすでにいかがわしい臭いがするじゃないか。  オレが何か言う前に納得したのか中年花田は電話を切っていた。  ――8時間後、どうしても騙された感が抜けないオレの耳に、今度は玄関のチャイムが聞こえてきた……。 ※ ※ ※  この世の終わりが来たと思った日から半年が過ぎた。  意外にもオレは満足した生活を送っている。  「ハジメちゃん、お茶ちょうだい」  ウメさんがデスクで書類に目を通しながらオレに頼む。  オレはウメさんの書斎を出て台所へ行き、緑茶を淹れる。  窓からは柔らかい春の陽射しがこぼれていた。  向かいの家の屋根ではスズメたちが楽しげに歌っている。  緑茶の青々とした新鮮な香りも立ち込め、オレはすっかり和んでいた。  85歳の五十嵐ウメさんがNPO法人だと名乗ってオレのアパートのチャイムを鳴らしたときは何の冗談かと思った。  普段着でのっぺりした顔つきはどうみても近所のバアちゃんが部屋をまちがえたんじゃないかと思ったほどだ。
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