超妄想シリーズ16

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 こうして、オレは強引に押し切られる形でウメさんの秘書になった。  秘書といってもオレの役割はお茶くみや雑務、ウメさんの話相手だ。実務的な役割は何人もの秘書が仕切っている。  たぶん、オレを気の毒がったウメさんがオレが孤立しないように気遣ってくれての配慮だろう。  とにかく、ウメさんは精力的な人だ。  世界中のあらゆる機関と連絡を取り合っては閣僚級の人たちと話をつける仕事をしている。  見ているこちらがパワーを分けてもらえそうなほど元気で明るくてチャレンジ精神が旺盛だ。  ウメさんといると性別を意識しなくていい。  でも女性扱いしないと怒られる。  飲んだくれで暴力しか振るわなかった父親も、その父を捨てて他の男と駆け落ちした母も、もうこの世界にはいない。  いまはウメさんが家族のようなものだ。  人々から偏見や闘争意識がなくなったせいで、ウメさんの人権擁護団体の仕事はなくなってしまった。  代わりにいまは平和と偏見のない世の中を維持するための教育に力を入れている。  そんなこんなで気のせいか世界の空気も変わったように思える。  戦争はなくなった。  パワー系の仕事は機械に任せられるよう世界中で知恵を出し合ったおかげで技術革新がさらに進んだ。  世界から風俗街が消え、街並みもゴミ一つ落ちていない。  同性愛好者だとバレたオレにも誰もが優しくしてくれる。  長年の胸のつかえがとれたような気分だった。  「やっと人類が“存続してもいい存在”になれてきたような気がするねえ」  オレの淹れたお茶を美味しそうに飲みながらウメさんがつぶやく。  「環境を破壊しまくったり、食物連鎖をぶち壊したりしなくても上手にやっていけるちゃんとした種族だともう誇ってもいいかもしれないね」  「そうだね、ウメさん。でも、オレはウメさんの相手をしているだけで、この世界になんの貢献もできていないよ。種族も増やせないし」  「ハジメちゃんが残った意味は長い目で見て考えていけばいいさ。  まあ、あたしは、『この世に貢献できない人でも存在していていいんだよ』っていう優しさを皆に伝えるためにいるような気がするんだけどねえ」
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