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我に帰り、冷静さを取り戻した時には全てが終わっていた。
自らの手には赤く染まったバットが、そして目の前には、血の海に横たわる里沙の姿がある。
……最悪だ。この世の終わりだ。
俺はとうとう、殺ってしまった。
自分の嫁を、殺してしまったのだ。
手に持ったバットを床に落とし、ピクリとも動かない里沙の姿を見ながら、取り返しのつかないことをしてしまった自分の行動を悔やんだ。
俺は昔からそうだ。
何かあればすぐにカッとなって、周りが見えなくなる。
そして、ひと時の感情だけに委ねた行動を起こしてしまう。
今回だって、内容はよく覚えていないが始まりは本当に些細な口喧嘩だったと思う。
しかし、お互いの口論が強くなるにつれて頭に血が上ってしまい、その後はただ怒りに身を任せて行動してしまった。
気付いた時には、玄関に置いてあった金属バットで里沙の頭を何度も殴っていた。
今までも、何度も里沙を殺したいと思った瞬間はあったのだが、とうとうそれを実際に行動に移してしまったのだ。
くそっ……、最悪だ、本当に。
このことが誰かに知られれば間違いなく俺は終わる。
もちろん今の会社はクビだ。
その後は何年も刑務所で暮らす羽目になるだろう。
刑務所から出た後だって、人殺しを雇ってくれる会社なんてあるのだろうか。
この状況が外に漏れることになれば、俺の人生は終わったも同然なのだ。
……とりあえず、死体をどこかに隠さなくてはいけない。
もう自ら動くことはない里沙の体を起こし、腕を自分の肩に回してリビングから風呂場まで引きずりながら運ぶ。
そのまま血を洗い流せることもあり、ひとまずは浴槽の中に死体を隠しておくことにした。
リビングから風呂場まで死体を運んだことで血だらけになってしまった床は何枚ものタオルで拭き取った。
床を掃除している最中、里沙の勤務先にもしばらく休む旨の連絡を入れる必要があることに気付いた。
幸いにも、俺も里沙も職場以外の人付き合いが極端に少ない。
里沙の勤務先にさえちゃんと連絡しておけば、すぐにこの状況が誰かに知られるということはないだろう。
ただ、それも結局は時間稼ぎにしかすぎないのかもしれない。
いずれ必ず、どこからか綻びが出て、里沙の身に何かが起こったことに誰かが気づくだろう。
俺はこれから、どうしていけばいいのだろうか……。
飛び散った血も大方拭き終わり、そして突然の睡魔に襲われる。
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