気付けなかった罪の代償

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「里沙、今までごめん……。これからは、もっとお前を大切にしたい」 それは今までの俺なら絶対に口にしない言葉だ。 そもそも心にも思っていなかったのだから、口に出るはずがなかった。 でも、今は違う。 もう里沙を失いたくないという気持ちは、紛れもなく本心だった。 「亮一くん……。嬉しい……」 里沙も俺をギュッと抱きしめる。 こんな形の幸せがあったなんて、俺は知らなかった。 誰かを強く想い、そして誰かに強く想われるということは、こんなにも気持ちの良いものだったのか。 「……亮一くん、ちょっと汗臭いよ。先にシャワー浴びてくる?」 「あぁ……、そうだな。浴びてくるよ」 幸せを噛みしめながら、俺は浴室へ向かう。 そして浴室を前にしたとき、その幸福感は一瞬にして消え去っていく。 これが夢や幻想でなければ、浴槽にはあるはずなのだ。 変わり果てた、里沙の遺体が。 浴室に入り、浴槽の蓋を恐る恐る開けると……。 浴槽の中には、お湯以外は何も入っていなかった。 「亮一くん」 真後ろで不意に声をかけられ、俺は思わず「うわっ」と声を上げてしまった。 「もし湯舟につかりたいなら、追い炊きした方がいいかも」 「あ、ああ。わかった」 そういうと、里沙はリビングの方へ戻っていった。 現状を整理すると、浴槽にあるはずの里沙の遺体がなくなっていて、その死んだはずの里沙は以前までと何も変わらない様子で今日を過ごしている。 そして、さっきまでの里沙の姿も今俺の目に映っているこの浴室の光景も、夢や幻とはとても思えない。 今俺は紛れもない現実にいて、里沙を殺したあの日のことや、そこから過ごした5日間あまりの記憶が幻想なのかもしれない。 そうとしか、考えられないのだが……。 釈然としない気持ちの中、あの日のことが幻想だったとしても、もう二度と里沙を傷つけないことを決意する。 浴室の床には、里沙のものであろう長い髪の毛がいたるところに抜け落ちていた。
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