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さりげなく忠告したつもりで半ば自身に向けた長門は、六兵衛を連れたまま竹千代のいる屋敷へ出向いた。
「それにしても鬱陶しい霙だのう」
眉をひそめて鼻を鳴らす長門に、六兵衛が袖を引っ張り屋敷を指差した。示されるまま視線を向ければ、屋敷から男児がじっと睨んできている。
(餓鬼のくせに三河者の面倒臭さが漂っておるなぁ……)
思わず睨み返す長門の横をすり抜けて六兵衛が、勢いよく男児に名乗りをあげた。
「某は朝倉六兵衛と申しまする」
妙に明るい六兵衛に男児は訝しげな瞳を向け、六兵衛を眺めまわし奥に突っ立っている長門へ声を投げた。
「拙者は服部半蔵と申しまする」
「!?──」
長門は目を瞠き瞬いた。伊賀三大上忍の一人、服部半三保長が松平家に仕えたことは把握していたが、その倅が竹千代の付き添いだとは知らなかった。
「半三の倅とな。鍛えがいがありそうだ」
にやにや笑って無遠慮に屋敷へ上がり込み、半蔵の額を小突いた。
「藤林長門の名ぐらい知っておるだろう?」
「!!っ、甲賀忍びも従え、あちこちで忍術を教える鬱陶しい三大上忍の一人……」
「むう。半三の奴……おかしな吹聴をしおって。面倒臭くなったのう」
見るかぎり半蔵は三河で生まれ育ったため、伊賀忍びとは言い難いようであった。
「半蔵、わしが鍛えてやる。六兵衛と修行せい」
「えぇ……長門様がぁ?……嫌にござります」
力なく渋い表情をする半蔵に、長門は一発拳骨を入れた。
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