序章

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その騒がしさに、ずかずかと奥から酒井忠次が青筋たてて現れた。  「藤林殿。先程お会いしたにもかかわらず、何用にござりまする」  「半蔵と他近習の餓鬼共」  「さっそく……見張りにござりますか」  「見張りは面白くない。ちと、遊んでやろうかと」  「結構にござります。三河には三河の──」  「ここは! 駿河今川。竹千代殿以外は従ってもらう」 ぴしゃりと忠次の言葉を遮り、冷ややかに告げた長門は顎で杓って他の者たちを連れてこいと命じた。 激しく唇を噛む忠次に動く気配は見られない。  「可愛くないねえ。年長者のお願いがきけない、と」  「お願いだと!?」 長門の平然と宣う態度に忠次は声を荒げたが、ふいに彼は背後から肩を叩かれた。  「斯様なところで揉め事は御免にござる」  「っ……与七郎」  「藤林殿、失礼致しました。某は石川数正にござりまする」 与七郎と呼ばれる石川数正は長門に一礼して謝った。  「数正殿、餓鬼の守りはこの藤林が致しますぞ。特に半蔵は」  「左様に。どうぞ、使ってやってくださりませ」 軽く言う数正は奥に向かって大声で 「彦右衛門! 七之助!」 と呼びつけた。 すると、急ぎ駆けてきた子たちは促されるまま名乗り、長門をじっと見上げる。  「鳥居彦右衛門は11歳、平岩七之助は8歳か。まさしく竹千代の伴に見合うておるのう」 忠次が23歳、数正が17歳と三河者たちは若い。ある意味、染めやすくはあるということだが。
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