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長門は意気揚々と子供たちを眺め、瞳を輝かせた。
うまく育てれば、今川の忠臣となるかもしれない。特に半蔵と六兵衛には期待が膨らむ。
「わしが、よう遊んでやるから楽しみにしておくがいい」
にやにや頬が緩む長門の前へ 「拙者も加えてくだされ」 と大きな声が轟いた。子供たちを掻き分けて歩み出てきたのは竹千代である。
「藤林殿、拙者も修行したく存じまする」
鼻孔を広げ強気な眼差しで懇願しながら、好奇心旺盛に顔を輝かせる竹千代は、忠次の制止さえ振りきった。長門は胸内でにやりとほくそ笑む。獲物がかかったと……──。
「これはこれは。松平ご当主、自らがお望みとあらば、藤林長門が厳しく指南致しまする」
「うむ。有り難いことにござりまする」
心底楽しげに満面の笑みを浮かべる竹千代に、長門は肩をすくめて苦笑せざるを得なかった。
長門が屋敷を後にしてから、竹千代は嬉々とした表情で忠次へ振り向いた。
「義元様が仰有ってくださったとおり、文武すべてを学べる!」
「……若。人質であること、お忘れなきよう」
「わかっておる。然れど、斯様に素晴らしきところで、何でも望むまま学べるなど、普通ならばあり得ぬ」
竹千代は駿河駿府の豪奢な町に心底驚き、当主としての手腕に感じ入っていた。織田で拝謁した当主の信秀は土臭く、義元は雅やかで優美な立ち居振舞いである。足利一族の血筋を持つ名門今川当主への憧れは必然的であり、素直に従う心が芽生えるのも当然であった。
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