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「まあ、待て竹千代。お主、歴史を学びたいと申したそうだの?」
氏広が訊いてきた。竹千代が小さく頷いて答えようとするのへ、懐から書を取り出し素早く竹千代に差し出した。
「吾妻鏡だが、読んでみるか?」
「!! はい、是非っ」
竹千代は嬉々として書を受け取った。
「竹千代、続きが読みたければ殿の屋敷へ行け。それは殿が竹千代に渡せと申したものだからの」
「義元様が!?」
驚愕する竹千代に、瀬名がくすくすと笑いを洩らした。
「義元様に気に入られたのじゃ」
「左様なれば嬉しきことにござりまする」
竹千代は興奮して口が開きっぱなしに書を眺めた。
その様子に氏広は顎髭を擦りながら感心して頷いた。
(殿の申すとおり、三河手懐けは竹千代しだいか)
目を細めて数正を見下ろせば、すかさず目が合う。けれど、数正の瞳は忠次ほど鋭いものではなかった。
「数正、お主もよう学ぶがよいぞ」
「ありがとうござりまする。若の知識に劣らぬよう励みまする」
少しばかりはにかんで見せた表情は、いたって素直なものだった。
年始も終わると、いよいよ竹千代は太原崇孚に学ぶこととなる。
臨済寺へ赴いた竹千代は、目の前にした太原の凄味に思わず尻込みしそうになり俯いた。
そんな竹千代に太原は静かに庭訓往来 (ていきんおうらい) という手習い本を渡した。往復書簡の文章集で12ヶ月の往復書簡に1通を加えた25通からなり、日常に必要な語彙集も含んだ読み書きの本である。
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