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第一章 星三つ
眩しく青嵐が吹き渡る頃。正室を亡くして気落ちする義元は、ぼんやりと縁側に腰かけ庭の光景を眺めていた。
庭では忙しなく 「あり」 「や」 「おう」 などとかけ声が響き、蹴鞠を勤しむ嫡男、氏真の姿があった。
(斯様に蹴鞠が楽しいものかのう……)
さっぱりわからない、といったふうに義元は隣に座す瀬名を見やった。
此方は、可愛らしげな笑みを浮かべて、義元相手に囲碁を打っている。
(瀬名は可愛い……氏真も少しは……いやいや……あれはあれで……無理か。流鏑馬か騎馬打毬でもさせたい)
義元は何度めかの溜め息を吐き、白石を手のなかで転がし瀬名が打つのを気長に待った。
欠伸を噛み殺し、吹き抜ける風に正室へ思いを馳せる。これで武田との繋がりがなくなってしまったのだ。新たに武田と縁をつくらねばならないが、今度の当主は信虎を追放した晴信である。
(しかも、信虎は出家して、この駿河にいる……はっきり言って荷物。晴信の奴、もう少し多く世話料をよこせばよいものを)
待つことに退屈して義元が首を振ると、やっと瀬名が打ってきた。
「瀬名、それは無謀というもの」
「ええ? 最初に打ってたのは黒なのに……」
「三々で終わりだろう」
などと言って子供相手に、その後も容赦なく勝ちを取った義元である。
むくれる瀬名に、高らかな笑いをあげ氏真が話しかけてきた。
「父上に囲碁で勝とうなど無理じゃ。瀬名、そちは箏でもしておれ」
「従兄上には、貝合わせがお似合いですぞえ!!」
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