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泰朝が妙な憂いを抱えて深い息をついているところへ、駿河一の美女は無垢な笑顔を浮かべて義元のところへ寄り添ってきた。
「義元様。ときに真嶺姫から文は来ておりますの?」
「うん? 達者で暮らしておるようだぞ。義信殿も頗る賢いようでの」
「……つまり、今川に傾倒しておるということにござりますか」
「ふん。ふふ……。元康とて左様であろう?」
そう質す義元は微笑んではいるが、目は笑っていない。ふつうなら畏縮しそうなものだが、瀬名も華やんだ笑顔で頷いて見せる。
「元康様が義元様を裏切ることはありませぬ」
「……左様か」
義元は少し思うところがあるようにぽつりと呟いて、瀬名から元康へ視線を向けた。が、ぎょっとして茶杓から抹茶を取り零しそうになった。
(あやつ……頭は正気か!?)
元康の険しい顔つきと激しい視線に、義元はおもわずたじろいで己の傍から瀬名を押しのけた。
(大丈夫であろうか……。この先、瀬名が幽閉されそうで怖いわ……)
義元が一瞬の動揺を見せている隙に、元康は数正に頭を掴まれ正面を向かせられていた。
愚痴を述べる元康に、数正の説教が入り、且つ冷泉為益の指導も入る。
「義元様も大概であるが、元康殿も酷い……」
「冷泉殿……わしは歌は得意では……」
「歌とて武家の嗜みになっておるのですぞ」
「然れど……」
さらに口答えしたい元康だったが、氏真の視線を感じてぐっと堪えた。
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