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けれど、瀬名は悪気もなく言っては、佐治の夕陽に染まる金赤の髪を眩しそうに見つめていた。
「ところで、元康様はどちらへ行かれたのじゃ?」
「さあ。鷹の世話でもなさっておるかと」
「左様か……」
瀬名はふっと息をついて目を細めた。そうして、ゆっくりと直親へと向き直った。
「従兄上、元康様はお戻りにならぬようじゃ」
「左様にござりますか。挨拶しかできませんでしたが……」
「ふふ。元康様は疲れておいでなのじゃ。為益様に絞られたうえ、為良殿に将棋を何局もせがまれたのだからのう」
瀬名がちらりと佐治を見やると、佐治は素知らぬ顔で鼻を鳴らした。
「たまには瀬名姫様とだけでなく、我らと遊ぶのも宜しかろうて」
「我ら?……」
直親が不思議そうに佐治を見つめるが、答えずに彼は踵を返した。そして首だけ此方へ向け軽く笑った。
「直親殿、鬼が出ぬ間に戻りますぞ。いやいや虎かのう」
「……鬼のほうがましでござるな」
直親は軽く吐き捨てるように洩らしながら腰をあげた。
「瀬名姫様、元康様に宜しう。では、お暇致しまする」
「くれぐれも気を付けてたもれ」
瀬名は小さく呟いて直親と佐治が出ていくのを見送った。
やがて不満げに俯き、大きく息をついて無意識のうちに親指を口許へ運び、小さく咥えこんだ。
(従兄上に愚痴を洩らしすぎたかもしれぬ……。盛大に笑われてしもうた。然れど……)
瀬名は押し隠していた不安がじわりと溢れてきていた。
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