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──山小屋で目覚めたとき、傍にあった顔は瀬名の侍女だった。
綺麗な顔ながら、妙に色気付いた仕草が鼻持ちならない。加えて己にべたべたと触れてくる手が気持ち悪い。
「汗ぐらい己で拭える。さがれ」
冷たく言い放ち、きつく睨んで手拭いを奪うと感触を拭うように擦る元康に、お万が所在なさげに訊ねた。
「私のどこが至らぬのでございますか……。前々から私は元康様に邪険にされておりまする」
「……邪険が気に食わぬか」
「…………はい」
口ごもりながらも、はっきりと頷くお万に、元康は呆気にとられ、胸内で嘲笑した。
「わしの扱いなど、お主には関係のないこと。おとなしく瀬名姫の侍女をしておればよい」
くだらない問いかけのために、この女は瀬名姫の世話を投げてきたのか、と元康は再び彼女を睨んだが、すぐに千賀地の視線を受けてはだけた着物をただした。そうして、ふと吐き気のしそうな魂胆が見えて千賀地の胸ぐらを締め上げたのだった──
「地蔵殿。よもや側室などというものを押しつけようとしたのではあるまいな?」
「左様なことは申しておりませぬ。ただ、あり得ぬことではないというだけにて」
「馬鹿馬鹿しい。わしは瀬名姫以外いらぬ」
「娶ったばかりだからでしょう?……そのうち新しい女子が欲しくなりましょう」
「どの女も駿河一の美姫の前では霞む」
元康は侮辱に腹を立て、無為に過ごした時も惜しく、不機嫌のまま山をおりた。
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