序章

6/16
前へ
/116ページ
次へ
 「面白い餓鬼でござりましたでしょう?」 ゆっくりと胡座をかきながら長門は、いそいそと袂から愛用の煙管を取り出す。義元は呆れたように煙草盆を差し出した。  「それより、長門。件の面倒は片付けたか」  「ふぅ……何故、越前朝倉を気にする必要がおありなので?」  「延景 (のぶかげ) が家督を継いだらしい。……朝廷と密な朝倉家に何かあれば、今川が用を言いつけられかねぬし、駿河の分流朝倉家に火の粉が飛んできては困る」  「朝廷をお嫌いに? ……まあ、延景は優れた男と聞いておりまする」 冗談めかして言う長門に、義元は不機嫌に眉をひそめた。  「補佐に宗滴 (そうてき) や景鏡 (かげあきら) がおる間は、まだいい……。が然し、いつ誰とも謀反を起こしかねぬ……」 朝倉は当主孝景の弟、景高が謀反を起こすも失敗し、京へ逃れては追放され、果ては若狭武田から西国へと没落した。その間、孝景も没し嫡男の延景が新当主となったのである。  「まあ、仰せのまま見て参りましたが、骨折り損でござります」 長門は煙草の煙を燻らせ、不満に満ちた顔を義元に向けた。  「景高は本当に没落しておりました。はて、朝倉は宗滴が没すればどうなるか……くくく。殿は、今川を重ねておいでに?」 にやりと意味ありげな笑みを唇に浮かべると、義元は冷ややかに微笑して長門の手から煙管を奪い口にした。  「多少な……。空洞は御免だが。わしは何を間違うたか、あの愚息に期待はできぬ」
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

212人が本棚に入れています
本棚に追加