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「面白い餓鬼でござりましたでしょう?」
ゆっくりと胡座をかきながら長門は、いそいそと袂から愛用の煙管を取り出す。義元は呆れたように煙草盆を差し出した。
「それより、長門。件の面倒は片付けたか」
「ふぅ……何故、越前朝倉を気にする必要がおありなので?」
「延景 (のぶかげ) が家督を継いだらしい。……朝廷と密な朝倉家に何かあれば、今川が用を言いつけられかねぬし、駿河の分流朝倉家に火の粉が飛んできては困る」
「朝廷をお嫌いに? ……まあ、延景は優れた男と聞いておりまする」
冗談めかして言う長門に、義元は不機嫌に眉をひそめた。
「補佐に宗滴 (そうてき) や景鏡 (かげあきら) がおる間は、まだいい……。が然し、いつ誰とも謀反を起こしかねぬ……」
朝倉は当主孝景の弟、景高が謀反を起こすも失敗し、京へ逃れては追放され、果ては若狭武田から西国へと没落した。その間、孝景も没し嫡男の延景が新当主となったのである。
「まあ、仰せのまま見て参りましたが、骨折り損でござります」
長門は煙草の煙を燻らせ、不満に満ちた顔を義元に向けた。
「景高は本当に没落しておりました。はて、朝倉は宗滴が没すればどうなるか……くくく。殿は、今川を重ねておいでに?」
にやりと意味ありげな笑みを唇に浮かべると、義元は冷ややかに微笑して長門の手から煙管を奪い口にした。
「多少な……。空洞は御免だが。わしは何を間違うたか、あの愚息に期待はできぬ」
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