第二章

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「わしの目はごまかせぬ」 ぼそりと呟いて、強引に瀬名を抱きよせ、彼女の右手を掴みあげた。  「何を思うたのだ……」  「元康様……?」 瀬名は、きょとりとして目を上げ小首を傾げている。そんな仕草に元康は彼女の親指へ口付けを落とした。  「形の良い爪を……噛むでない」  「あ……」  「そなたの癖ぐらい承知しておる」 言いながら再び口付けては、彼女の指を口に含んで舌で弄んだ。 瀬名は応えるように元康の胸へ縋りついた。  「元康様……お万を……」  「抱くわけない──」 その名は聞きたくもないと、元康は瀬名を少し引き剥がし首に舌を這わせた。 無にした時を取り戻すように、早く肌を合わせたいと白小袖の裾を開き、たくし上げて褥へ押し倒した。 そうして、元康は熱に酔ったように瀬名を求め、絶え間のない攻めを与えては、瀬名の敏感な反応と熱烈さに包み込まれた。互いの熱情と快感が交錯するなか、切迫した元康は喜悦の声を洩らし、熱い喜びを放った。  「瀬名姫……愛しうて堪らぬ──熱が冷めぬな……」  「わらわは……疲れて眠い」  「はは。よいぞ、眠っても」 元康は瀬名を優しく抱きしめて囁き、頬を撫でた。  「出陣などで離れる以外は、ひとり寝などさせぬから」 茶目っ気たっぷりに言いおいて、元康のほうが先に寝入ってしまった。瀬名は小さく笑んで彼の胸にすりより眠りについた。
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