第二章

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しかし、瀬名を不安に陥れた張本人は佐治である。どうにも彼の動きは解せぬことが多く、信用できない。数正は六兵衛と連れ立って城を出ると、長門の居場所を訊いた。  「藤林殿は何処の酒場におるのだ?」  「ええ……酒場ではなく田畑の畦道にて……」  「田……畑……」 妙なところで呑んでいるのだな、と不思議に思った数正だが、長門が無駄なことをするはずはなく理由があるのだと思い直した。  「ならば、押しかけてはならぬな」  「左様に。某などは邪魔扱いされましたし……。それよりも佐治殿は何処でござりましょう? とんと姿を見ておりませぬが」  「……あやつは、駿府であろう?」 困惑気味に訊き返した数正に、六兵衛は八の字に眉をしかめ、げんなりと息を吐いた。  「道中、確かにおりましたよ」  「某としたことが……気付かなんだ」 渋面になったところで佐治の行方などわかりはしない。まったく厄介な者を抱えてしまったものだ。 その頃、畦道で酒盛りに耽る長門の目を掻い潜り、佐治は藪の中を突き進んでいた。獣道を通り、邪魔な枝や虫を薙ぎ払いながら、小さな祠へと辿り着く。  「三坊。待ちくたびれたぞ」 暑そうに頭巾の裾を手ではためかせ、しきりに目の前を飛ぶ虫を払う男は、佐治を三坊と呼び、軽く睨んだ。  「駿府から元康にくっついてきたのだ。少々疲れたよ。長門もいたし」 佐治は欠伸をしながら男の隣に腰をおろした。
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