第二章

22/53
前へ
/116ページ
次へ
静かな鬱蒼とした藪中で落ち合う二人は、互いの格好を一瞥した。  「三坊は野武士みたいだの。いつもの派手さは何処ぞへ?」  「あれでは道中、目立って数正に睨まれ、元康に恨み言を呟かれ続けてしまう。三郎こそ忍装束とは見慣れぬな」  「ふん。佐治家当主がいつも忍装束でうろついておっては、いらぬ敵をつくるわ」  「その当主自らが、斯様なところまで出向くとは……佐治城は大丈夫なので?」 少々、不満げに頬をふくらませる佐治に、三郎はおかしそうにくつくつと喉の奥を鳴らした。  「三坊が城を案ずるとは、片腹痛いわ。散々、勝手をしおって」 佐治家当主である佐治三郎為次 (ためつぐ) に皮肉めいて言われた佐治は低く唸った。  「拙者よりも若くあるのに、御苦労様なことで」  「……ふん。ところで、三坊。千賀地は毛利忍びの有兎 (ありと) に追われておるようだが、放っておいてよいのか?」  「構わん。千賀地は存外楽しんでおる。それより、此方には半蔵と六兵衛があって面倒でならぬ……」 口ごもる佐治だったが、ふと長門の言葉が脳裡に浮かんだ。『六兵衛の躾を任せる。拙者が躾たのでは器用に生きられぬゆえ』 あれは、どういう意味であったろうか。己が器用に生きてきたとは思わないのだが──。 眉をひそめる佐治の耳に、三郎の小さな溜め息が聞こえた。  「三坊、此方へ戻る気はないのか?」  「……暫くは元康のところに身をおく」 佐治は呟くように言って小さく頷いた。 予想していた言葉に三郎はこめかみを押さえ吐息した。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加