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静かな鬱蒼とした藪中で落ち合う二人は、互いの格好を一瞥した。
「三坊は野武士みたいだの。いつもの派手さは何処ぞへ?」
「あれでは道中、目立って数正に睨まれ、元康に恨み言を呟かれ続けてしまう。三郎こそ忍装束とは見慣れぬな」
「ふん。佐治家当主がいつも忍装束でうろついておっては、いらぬ敵をつくるわ」
「その当主自らが、斯様なところまで出向くとは……佐治城は大丈夫なので?」
少々、不満げに頬をふくらませる佐治に、三郎はおかしそうにくつくつと喉の奥を鳴らした。
「三坊が城を案ずるとは、片腹痛いわ。散々、勝手をしおって」
佐治家当主である佐治三郎為次 (ためつぐ) に皮肉めいて言われた佐治は低く唸った。
「拙者よりも若くあるのに、御苦労様なことで」
「……ふん。ところで、三坊。千賀地は毛利忍びの有兎 (ありと) に追われておるようだが、放っておいてよいのか?」
「構わん。千賀地は存外楽しんでおる。それより、此方には半蔵と六兵衛があって面倒でならぬ……」
口ごもる佐治だったが、ふと長門の言葉が脳裡に浮かんだ。『六兵衛の躾を任せる。拙者が躾たのでは器用に生きられぬゆえ』
あれは、どういう意味であったろうか。己が器用に生きてきたとは思わないのだが──。
眉をひそめる佐治の耳に、三郎の小さな溜め息が聞こえた。
「三坊、此方へ戻る気はないのか?」
「……暫くは元康のところに身をおく」
佐治は呟くように言って小さく頷いた。
予想していた言葉に三郎はこめかみを押さえ吐息した。
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