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やがて、苦笑を滲ませ、ゆっくりと口を開く。
「……仕方のないやつだのう。それで──? 今川義元の質である元康に仕えて益はあるのか」
からかうような三郎の瞳は、すでに当主の威厳を湛え見据えてくる。佐治は内心、顔をしかめた。当主が出向くと事が速やかに進まない。
「さあな……ただ元康という男が面白そうであったから……では納得せぬか」
「昔から三坊は解せぬが。此度のお主の頼みも解せぬ」
三郎は低声で冷たく言い放った。そんな声音は佐治を苛立たせた。
「ふん、拙者らしいであろう……。兎に角、頼みのものを寄越せ」
「寄越せも何も、そこの茂みに居るではないか」
「っ……!?」
三郎に示された茂みに控える物体に、おもわず佐治は目を瞠いた。
「ま、また……餓鬼」
うわずる佐治の眼前へ、六兵衛と同年くらいの少年が、茂みを掻き分け出でてきた。うっすらと血の気がのぼりだす佐治をよそに三郎は身を仰け反らせ、すっと立ち上がった。
そして、威圧でもない朗らかな笑みを湛えた三郎に、佐治は悔しそうに俯いた。どうにも、この腹黒な笑みに弱いのが佐治であった。
「お主が商人を寄越せと申すから用意したまでよ。名は中島清延 (きよのぶ) 。京と此方を行き来できるほどには鍛えてある」
わざと見下ろして言うと三郎は、さっさと藪中へと歩いていってしまった。
「あの野郎……」
呻く佐治の隣には清延が満面の笑みを浮かべていた。
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