第二章

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今の置かれた状況に佐治は一瞬、呆然とするも、すぐに陽気な声をあげた。  「拙者は商人を寄越せと申した。清延、お主はほんに商いができるのだな?」  「勿論にござります。頼まれたものはお持ち致しましたので。お任せくださりませ」  「ふむ。では、参るか」 もはや、細かいことは気にしない。わざわざ佐治家当主が出向いて寄越したのだ。信ずるにかぎる。 佐治は清延を連れて、また面倒な藪中を歩き始めた。だが、どこで三郎と通じたのかは気にかかり問う。  「父上が三郎様相手に商いをしたことがきっかけにござります」  「守銭奴の三郎によく商いができたのう。……ゆえにお主が使われておるのか?」  「どういう意味でござりましょう? 駿河には見栄張り下向の公家が多いのでござりますよ? 三河にも荷車が多く入るではありませぬか。ひとえに商いにござります」  「餓鬼の癖に……」  「某は商いのみならず武も極める所存。それに元々は父上こそ武士であったのでござります。辞めて商人になりましたが」 と、清延が述べたところで三郎の魂胆が読めた。結局のところ諜報に使いたいのだ。六角義賢に仕える佐治家の動きがにわかに感じられた。 そうして歩き進め、畦道へと辿り着けば、未だ酒盛りを繰り広げている長門たちの姿がとらえられた。 直ぐ様、長門の視線が此方を射抜いてくる。  「待っておったぞ! 天狗~」 呼びかける言葉は酔っ払いのものだが、その瞳はあきらかに怒気を含んでいた。
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