第二章

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佐治の動きをわざと見逃してやった長門は、清延に視線を走らせ手招きする。  「そこの餓鬼、お主もこっちへ来い。菓子があるぞ」 そんな長門に清延は警戒の色を滲ませ、窺うように佐治の顔を見上げた。だが佐治は目を輝かせて忍び笑いを洩らしている。  「ありがたいのう。酒も菓子もあるのか。何処ぞの御身分の集まりか」 佐治が声を張り上げ近付くと、長門の隣で呑んだくれている男が木の枝を振り上げ応じてきた。  「あっしら、行商でさぁ。美味いもんは、まあ手に入りますぜ」  「ほう。行商とな。何を売っておるのだ」  「針でさぁ」  「……拙者には必要ないものだの。が、折角だ。見せろ」 佐治が要求すると男はへらりと笑い拒否した。買う気のない者には見せぬという素振りで、酒をまわしてきた。  「あっしは禿げ鼠と申しやす」  「禿げ鼠!?」 驚きに目を丸くさせると、すかさず長門に叩かれた。  「お主こそ、天狗であろう」  「……左様であるが、湯舟 (ゆぶね) こそ、ほいほい人の頭を叩くな」 長門を湯舟と呼び、厳しく睨んで佐治は言った。  「まあまあ、楽しく呑みましょうよ」 禿げ鼠は酒を呑みながら、己の相棒の行商の名は猿だと紹介した。  「天狗、禿げ鼠、猿、湯舟……。何の趣向なので?」 傍で聞いていた清延が首を傾げると、直ぐ様、佐治が彼の頭をくしゃくしゃに掻き乱した。  「お主こそ蚊遣りであろうに。何を申しておる」 清延を蚊遣りと宣い、佐治は手元の盃の酒を呑み干した。
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