第二章

28/53
前へ
/116ページ
次へ
翌朝、佐治は清延をつれて元康の部屋を訪れた。  「やあ、殿様。御機嫌麗しう……。と、左様でもござらぬか。お目が腫れておいでにござりますな」 くっくっと、悪戯っぽく笑う佐治に対し、元康は脇息にもたれ穏やかな吐息を洩らして、のんびりと構えていた。  「天狗殿。そなたには瀬名姫のことを頼んだと思うておったが……違ったか」  「左様に。然れど、瀬名姫様のもとには達磨をおいておりまする。心配ご無用」  「達磨……。わしはまだ会うたことがないのだがのう。して、天狗殿の後ろに控えるは誰ぞ」  「これは中島清延と申しまして、商人にござりまする」 清延の挨拶もそこそこに佐治は懐から取り出した包みを開き、元康に差し出した。覗きこんだ佐治の手には精巧な黄楊櫛が三枚ほど置かれていた。  「天狗殿……。これは?」  「殿がご所望かと思いまして。瀬名姫様への土産に」  「!っ、おおう、左様か」 急に目の色を変えて黄楊櫛に飛びつき感触を確かめはじめた。 そんな様子を清延は呆けたように見つめていたが、すぐに慌てて口元を引き締めた。佐治が鋭い目つきで振り向いたからである。息を呑みつつ清延は遥々背負ってきた荷の行李を元康の眼前へ持ち出した。  「殿、某は商いのため参ったしだい。此方、如何でござりましょう」  「ほう。何ぞ、早よう中身を見せぬか」 瞳を輝かせる元康の前に、清延が披露したのは色とりどりの反物であった。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加