第二章

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なかでも少しばかり派手に見える黄色の草花模様の反物を、元康は真っ先に手にした。  「良いな。この色合いと模様──金糸が素晴らしい」 随分と楽しげに反物を広げる元康に、佐治は呆れたように声を投げた。  「殿……。瀬名姫様への土産にござりまするぞ」  「わしが着たいことの何がならぬ?」 むっとする元康は反物を己へとあてがい感触を確かめつつ、ちらりと清延へ視線を投げ意見を求めた。  「お、お似合いにござります……」 もっと述べた方が良いかとも思ったが、かえって機嫌を損ねそうな気がして、ひと言にとどめた。実際、見目麗しい元康には何でも似合ったため変に言い繕うのは揶揄でしかなかった。  「左様か。どうだ、天狗殿。わしが似合うなら瀬名姫も似合うであろう?」  「……殿。阿と呆けて鹿が馬に見えますると申し上げて、ようござりますか」  「!!……天狗殿っ。わしは、ただ……」  「ああ、成る程。のろけにござり申したか」 佐治は飄々と口にして、白地の反物を掬い上げた。それを、くるりと広げて柄をさらす。  「八重桜にもみじの花柄。淡い色合いは瀬名姫様に似合いまする。きっと此方のほうがお気に召されるかと……と、清延が申しておりまする」  「む?……清延殿?……瀬名姫を知らぬくせに、どの口が申すか。天狗殿、何を転嫁しておるのだっ」 きっと睨む元康を佐治はさらりと受け流し、清延へ笑顔を向けた。
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