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清延は妙な汗をかきつつ、膝をずいと進めた。
「恐れながら殿様。三坊殿より瀬名姫様のご容姿を伺い、斯様な色が必ずやお似合いになり、お喜びになられるであろうと──」
「断言致すのか?」
「は……はい」
「ほう。ならば、この反物を貰おう。瀬名姫がわしの満足する表情を見せなんだときは……お主は切腹だの」
「せっ、切腹!?」
思わず大きな声を出して慌てて平伏した。同時に佐治も平伏し、そっと小声で耳打ちを寄越した。「切腹は殿の口癖だ」
瞬間、佐治は頭を小突かれた。
「わしは口癖にした覚えはない」
「あれぇ。左様にござりましたか? ──では、まあ、さておきましょう。して、殿は……瀬名姫様以外にも贈り物をなさるのでござりますな」
「……誰に? 否、何の話しぞ」
元康は怪訝な表情を浮かべた。それに佐治は微笑を湛えるだけで答えることなく腰をあげた。
「石川殿と談義がありましょうから、某どもはこれにて」
清延へ目配せをして佐治はすっと部屋を出ていった。清延も手早く反物を仕舞い込み後を追った。
残された元康は、暫し沈黙し眉間にしわを滲ませた。
(石川殿……か。康正が何ぞ企んでおるのか? まったく三河は面倒臭い。いや、天狗殿も面倒臭いか。唐突に重要な話しを差し込んでくる)
先程までの浮かれた心地から一転、薄暗く痙攣つれ、俯いたまま溜め息ばかりが洩れた。
ゆっくりと重くなる足取りで家臣が待機する間へと向かうなか、三河気質に見下されぬよう、無理やり心を引き締め乱れを整えた。
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