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「邪魔よ!入り口で突っ立ってないで!!」
「すみませんっ……!!」
ふんっと、顔を反らした若い女性がヒールをコツコツ床に突き刺しながら歩き去ってゆく。
彼女の顔も名前もわからない。
こんな殺伐としたフロアにも一応私のデスクはある。壁際の左隅っこ。その上に積まれた段ボールの山が目印だ。
鍵をかけたロッカーから社員証を取り出して、すかさず入り口付近までダッシュで戻り
8:59
ピッとかざしたタイムレコーダー。
危ない……ギリギリだった……
「あ~やだやだ。これだから責任感無い人って嫌だわ。お金を稼ぐ事しか頭に無いんだから」
背後から聞こえた野太い声に、胃がキリキリと悲鳴をあげる。
どうも、この声とは周波数が合わない……
「あっ……チーフっ……、おはようございます」
「おはようじゃないわよ。まだ、三日しか出勤してないくせに良い御身分ね?」
「……すみません……」
頭を下げた私の後頭部に皮肉を次々に吐き出す彼女は、この編集部室チーフの安藤さん。
紫色の眼鏡。その光沢あるフレームの下、ギロリと鋭い眼差しが今も私を捉えている。
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