第四章

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「邪魔よ!入り口で突っ立ってないで!!」 「すみませんっ……!!」 ふんっと、顔を反らした若い女性がヒールをコツコツ床に突き刺しながら歩き去ってゆく。 彼女の顔も名前もわからない。 こんな殺伐としたフロアにも一応私のデスクはある。壁際の左隅っこ。その上に積まれた段ボールの山が目印だ。 鍵をかけたロッカーから社員証を取り出して、すかさず入り口付近までダッシュで戻り 8:59 ピッとかざしたタイムレコーダー。 危ない……ギリギリだった…… 「あ~やだやだ。これだから責任感無い人って嫌だわ。お金を稼ぐ事しか頭に無いんだから」 背後から聞こえた野太い声に、胃がキリキリと悲鳴をあげる。 どうも、この声とは周波数が合わない…… 「あっ……チーフっ……、おはようございます」 「おはようじゃないわよ。まだ、三日しか出勤してないくせに良い御身分ね?」 「……すみません……」 頭を下げた私の後頭部に皮肉を次々に吐き出す彼女は、この編集部室チーフの安藤さん。 紫色の眼鏡。その光沢あるフレームの下、ギロリと鋭い眼差しが今も私を捉えている。
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