244人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「良かったわね。克服おめでとう」
「…………え」
麗さんはそれだけ言ってカルテに何やら書き込み始めた。
予想とはだいぶ異なる反応に、私は口をポカンっと開いて固まってしまった。
“寂しいわ”とか“嫌よ”とか。
そういうのが一番に来ると思っていたから……
なんか、恥ずかしい……。
「じゃあ、来週の予約はキャンセルしておくわ。一応、一ヶ月後にもう一度来て。経過を聞かせて欲しいから。えっと……、金曜日の方がいいのよね?」
「はい……」
パソコンと卓上カレンダーを交互に見ながら、麗さんが事務的に話を進めてゆく。
「そこで何の異常も見られないようであればおしまい。長い間……よく、頑張ったわね」
と、目尻を細めて優しく微笑んだ麗さん。そんな彼女の背景。全面窓ガラスに、暗い空からポツリポツリと振り出した雨粒が流れていた。
最初のコメントを投稿しよう!