第十五章

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「良かったわね。克服おめでとう」 「…………え」 麗さんはそれだけ言ってカルテに何やら書き込み始めた。 予想とはだいぶ異なる反応に、私は口をポカンっと開いて固まってしまった。 “寂しいわ”とか“嫌よ”とか。 そういうのが一番に来ると思っていたから…… なんか、恥ずかしい……。 「じゃあ、来週の予約はキャンセルしておくわ。一応、一ヶ月後にもう一度来て。経過を聞かせて欲しいから。えっと……、金曜日の方がいいのよね?」 「はい……」 パソコンと卓上カレンダーを交互に見ながら、麗さんが事務的に話を進めてゆく。 「そこで何の異常も見られないようであればおしまい。長い間……よく、頑張ったわね」 と、目尻を細めて優しく微笑んだ麗さん。そんな彼女の背景。全面窓ガラスに、暗い空からポツリポツリと振り出した雨粒が流れていた。
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